クロモグリク酸ナトリウム製剤について  (2005.2.15)
                                          (最終更新日 2007.3.2)




毎年この季節になると俄然注目されてくる薬剤の1つに
「クロモグリク酸ナトリウム」があります。

これを成分とする薬として、
医療用医薬品では「インタール」が有名です。
(「インタール」には、点眼液、点鼻液、細粒、吸入液、吸入カプセル、エアロゾル、と様々な剤形があります。)

OTC(市販薬)では1997年に点眼・点鼻にスイッチされました。

私が初めてこれを知ったのは
当時の新聞で「エージーアイズ」「エージーノーズ」(藤沢薬品工業(当時))が新発売されるという記事を見た時です。

確か「医療用の成分クロモグリク酸ナトリウムが市販薬に初めて配合された。花粉症等のアレルギーを起こりにくくする抗アレルギー作用を発揮。」というような内容で、当時まだドラッグストアに勤めていなかった私にとっても、センセーショナルな印象でした。
あれから、もうかれこれ8年にもなるのですね。。。

・・・と、前置きが長くなりましたが、
クロモグリク酸ナトリウムがこの時期注目される理由は、
他でもない、この
「抗アレルギー作用」により、花粉症の予防効果が期待されるからです。

特に、現在、店頭ではこのクロモグリク酸ナトリウムが配合された目薬の動きがよい状況ですので、
まずは目薬のことに絞って書きます。


<目薬について>


一般的に、クロモグリク酸ナトリウムは、
2週間以上、1日4回〜6回点眼使用することにより、アレルギー予防効果が期待できるとされています。
作用機序は、
肥満細胞(マスト細胞)の膜安定化によりヒスタミンなどの化学伝達物質の放出を抑えて、アレルギー症状である花粉症の目のかゆみ、目の充血などを抑えるというものです。

肥満細胞は眼瞼や結膜組織に多く分布しています。花粉などの抗原(アレルゲン)が体外から浸入し、この肥満細胞の表面に存在する抗体と結合する(抗原抗体反応)と、肥満細胞の中からヒスタミン等の化学伝達物質が放出されるしくみになっています。これらの化学伝達物質がアレルギー症状の引き金になるので、肥満細胞の膜を安定化してヒスタミン等の放出を抑えれば、アレルギー症状が出るのを抑えられる、というわけです。

ただし、
市販薬の方は「花粉症の症状が出る前から点眼しておけば花粉症の予防ができる」という効能は謳っていません。メーカー様も「症状が出てから使用」というスタンスで説明をされます。文献上は、市販薬の濃度(0.1%)であっても予防効果はあるようなのですが、薬事申請上予防という効能を取得しておらず、また、濫用を防ぐという観点からも、「症状が出てから」という説明になるとのことです。


ここで、医療用薬と市販薬の比較をしてみます。



クロモグリク酸
ナトリウム
(抗アレルギー剤)
マレイン酸
クロルフェニラミン
(抗ヒスタミン剤)
グリチリチン酸
二カリウム
(消炎剤)
塩酸
テトラヒドロゾリン
(血管収縮剤)
その他
医療用 インタール点眼
(アステラス)
0.2%



市販 サンテアルフリー新目薬
(参天)
0.1% 0.015%

l-メントール
ロートアルフィット
(ロート)
0.1% 0.015%

塩酸ピリドキシン(ビタミンB6)
l-メントール
エージーアイズ/
エージーアイズCOOL
(ゼファーマ)
0.1% 0.015%

dl-カンフル
(エージーアイズCOOL)
ロートアルガード/
ロートアルガードs
(ロート)

0.03% 0.25% 0.01% 塩酸ピリドキシン(ビタミンB6)
l-メントール

サンテALクールU
(参天)

0.03%
0.25%
0.03%
イプシロン-アミノカプロン酸
アミノエチルスルホン酸
        (タウリン)
パンテノール
l-メントール


医療用のインタール点眼と市販のクロモグリク酸ナトリウム配合点眼では
濃度に2倍の差があります。

点眼薬の容量についてですが、1滴は約50μL(0.05mL)です。両眼に1日4回さすとすると、1日に最低0.4mL、1ヶ月では12mLとなりますので、症状がひどく長期にわたってよく使用する方には、10mLの商品では1シーズン持たないかもしれません。最近は12mL〜15mL入りの商品が多くなってきました。
ところで、
点眼薬を受け入れる"結膜のう"の容積は大人で30μL程度です。つまり点眼薬を2滴以上さしても、余分に目からあふれて無駄になるだけなので1滴ずつで充分ということになります(ちゃんと目に入れば。。。)
あと、目薬をさした後に目をパチパチする方がよく効くと思っていらっしゃる方が時々いますが、それは逆効果です。点眼された目薬は、すぐに涙と混ざり、瞬きによって涙点という小さな穴から鼻涙管を通って鼻の方に流れ出てしまいます。薬効を発揮するのは目の中にしっかり残って標的部位に到達する薬剤だけですから、流れ出た目薬というのは無駄になってしまいます。
ですから、
点眼後はできれば1〜2分目を閉じて涙の流れを緩やかにし、薬剤の多くがしっかり目の組織の中に浸透していくようにするのが効果的な使用方法なのです。更に良いのは点眼後目頭を押さえておくことです。目頭というとわかりづらいかもしれませんが、要は涙点からの涙の流出を抑えたいわけですから、涙点のすぐ下あたり、ということになります。
ところで御自分の涙点をご覧になったこと、ありますか?鏡を顔に近づけて、下の瞼を少し下げて見て頂くと、内側寄りに小さな穴があるのがわかると思います。そこがあなたの涙点-涙の出口です。


上の表で、クロモグリク酸ナトリウム配合の市販点眼薬には「マレイン酸クロルフェニラミン」という抗ヒスタミン剤も同時に配合されているのがわかるかと思います。抗ヒスタミン剤とは、ヒスタミンの働きをブロックしてかゆみなどの症状が発生するのを抑える薬剤であり、ヒスタミンの放出そのものを抑えるクロモグリク酸ナトリウムとは作用機序が異なります。そのため、これらの目薬は「抗アレルギー作用」と「抗ヒスタミン作用」のダブルの作用で花粉症に効いていくということになります。
ただ、今起こっている症状を
とにかく早く抑えたいという場合には、抗ヒスタミン剤の濃度が高い点眼薬の方が効果的ですので、そういった即効性を期待されるお客様には抗ヒスタミン剤の濃度の高い「ロートアルガード」「サンテALクールU」等をおすすめするとよいでしょう。

「コンタクトレンズ装用中に点眼してもよいでしょうか?」と、店頭で聞かれることは多いと思います。これについては、クロモグリク酸ナトリウム製剤(表の
赤字の商品)ではハードもソフトも不可、それを配合していないもの(表の青字の商品)ではハードのみ可・ソフトは不可、が原則です。パッケージや添付文書の記載(要は薬事申請で認められた用法)からこのような原則となるのですが、実際、眼科では「ハードレンズであればどの目薬でも問題ない」「1日の使い捨てタイプであればソフトレンズでも問題ない」とされるドクターも多くいらっしゃいます。
コンタクトレンズ装用中の点眼は、点眼薬の成分がレンズに吸着し目にも悪影響を及ぼす可能性があるということが問題となります。装用時点眼不可の場合
「レンズを外した状態で点眼し、5分以上経ってからレンズを装用する」ことによってその影響をほぼなくすことができますので、お客様にはそのようなアドバイスをしましょう。


<点鼻薬について>


商品名 クロモグリク酸
ナトリウム
(抗アレルギー剤)
マレイン酸
クロルフェニラミン
(抗ヒスタミン剤)
塩酸ナファゾリン
(血管収縮剤)
医療用 インタール点鼻液
(アステラス)
2% -
-
市販 エージーノーズ
(ゼファーマ)
1% 0.25% 0.025%
ロートアルフィット
(ロート)
ナザールブロック
(佐藤)


上の表のように、点鼻薬についても、市販薬中のクロモグリク酸ナトリウムは医療用薬の半分の濃度となっています。
点眼薬と同様に、点鼻でも、
市販のものはアレルギー「予防」の効能は取得していません。もちろんクロモグリク酸ナトリウム自体はアレルギー予防の作用を持っているのですが、市販薬で同時に配合されている塩酸ナファゾリン(血管収縮剤)は長期連用すると鼻粘膜にとって悪影響で、かえって鼻づまりを起こすことがありますので、これらの市販薬は「今起こっている症状を抑える」という対症療法のコンセプトで説明するのが基本です。
ちなみに医療用の
「インタール点鼻液」の方はクロモグリク酸ナトリウムの単味製剤であり、長期の使用が可能です。一般的にはアレルギー発生の予測される2週間程前から投与が開始されて、予防の効果が発揮されます。


<医療用医薬品 インタール の内服薬(細粒)について>


内服の場合は"
消化管に存在する肥満細胞からの化学伝達物質の放出を抑制してアレルギー症状を緩和する"という作用機序なので、これは食事由来のアレルギーを抑える薬ということになります。
クロモグリク酸ナトリウムは消化管から体内に吸収されるわけではなく、いわば外用薬のように消化管の内壁に作用していきます。
用法は「食前」と定まっていますが、この作用機序を考えれば食後では意味がないことがわかるでしょう。事前に消化管に薬を作用させておいてから食事をする、という順番になります。
投薬の際は必ず食前(食事の30分ぐらい前)にお飲み下さいね、という説明をしましょう。


 
junkuribayashi@hotmail.com

       
                                 

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