ENGLISH STYLE BREAKFAST 
(イギリス風の朝食)






 次の日の朝食、これは特筆に価する。少なくとも貧乏旅行をしている私にとっては。
 地下のキチンの奥の部屋の楕円形のダイニングテーブルには、レースのテーブルセンター、真っ白なナプキン。
赤いろうそくがアンティークなろうそく立てに5本、あたたかな光を演出してくれている。

 大きな皿の上に、おいしそうにこんがりと焼けた薄いパンが数枚、ジャム、バター(かわいいバター入れ)、目玉(片目)焼き、ベーコン、ウィンナ、大豆を甘く煮たもの、そしてオレンジジュース、おいしい紅茶は銀のティーサーバーに入っていて、いくらでも。

 なんといってもイギリスは
紅茶がおいしい。
ティーカップはアンティークな感じの薔薇の花模様で。どれもぴっかぴかに磨きこまれている。

 いすの後ろには、やわらかい暖炉の火が背中をふんわり、あたためてくれて。ロンドンの6月の朝は、ちょっぴり肌寒いから。
 Joy はトーストのお代わりはいかが?などと、さりげなくキチンの方から気を配ってくれて、私は申し分なく
happy。

 
「とっても素敵。おいしいわ」と言うと、Joy はにっこり

Joy の心づくしの朝食。食器や家具、すべてに彼女の好みが・・・。


朝食のあと Joy と、Mercia のところへ。途中、町並を説明してくれる。 
 「ここは昔、馬を飼っていたところよ。今は改造してフラット(アパート)にしたから、少し土地が低いでしょ。ほら、あれが Marble Arch。あれを目印になさいね。あのすぐそばに地下鉄のMarble Arch があるの。どこへ行くのにもとても便利だから」などと、いろいろと教えてくれる。

 Joy はおしゃべりさんだけど、嫌味がない。昔はなんと、大学の教授だったのだそうで。
 
ご専門は? と聞くと、少し照れて、
 イギリス文学よ。
 
Wow! 
 好きな『ジェインエア』や、シェイクスピアについてちょっと話す。以前、通信教育のレポートでシェイクスピアの4大悲劇をまとめたことがありました。
 
「あなた、Stratford upon Avonへもぜひ行くといいわ」
 
ハイ、ぜひ。
 
 15分ほど歩いて着いた Mercia の家は、四階建てのフラットの一階と地下の部分だった。中から出てきたのは、背の高いめがねをかけた、何となくとっつきにくい感じの女性。挨拶して私がステイすることになる地下のベッドルームへ。お二人は仲良しらしく、フツーの世間話をしている模様。
 ここは居間。ここがキッチン。バスルームはその突き当りよ。電話はここよ。そこは、コリンの書斎なの。何だか絵を描いているみたい。好きなようにやっていて、私に片付けさせないの。この部屋には入らないでね。

 私は心の中でつぶやいている。
「この人のところで6日間も? 仲良くなれるのかしら。ううん、こういう感じの人ってサ、意外と気持ちはさっぱりとしていて、いい人が多いんだよ」 
目が合うと愛想笑いをしたけど、正直言うと、ちょっぴり不安。こう見えても私、どこそこ臆病なとこもあって、合わない人とは絶対にだめ、なんだモン。

 その部屋は、結婚して離れたところで暮らしている30代の娘さんや、お孫さんが来て泊まるためが主で、来客用のものでもあるらしい。もちろん普通の家庭なので、カギなど余分にあるはずもなく、その娘さんが今日、持って来てくれて明日からしばらく私に貸してくれるのだという。
 その部屋には奥の壁際に一つ、入って右手の壁際に一つベッドが置いてあり、広さも充分で、シックでいい感じ。鏡台と彼女のものらしい壁掛けの本棚があり、写真がいくつか飾ってある。地下だけど、外の光も入って採光は充分だ。ドアにかけてあったピンクの水玉模様のタオル地のバスローブ。
 
「これ、古いけど洗ってあるのよ。よかったら、あなたお使いなさいね」

 別れ際に、Mercia が言った。
「あなた、荷物が重いらしいから、明日の朝、車でお迎えに行ってあげるわ。何時がいいの? そう、じゃ、9時半にね」
 
 
     ああ、Joy、 あなたという人は、もう完璧よ。
            
Perfect!!


 ただ、目の前で次々と起こることのなりゆきに、私だけが何だかついていってないみたい。
   
オイオイ、だいじょうぶかい? 

 その日の夜、Yoko が興味津々、やってきた。二日前、ホテルに彼女からかかってきた電話で、カクカクシカジカ。 
 「ふ〜ん。ヒアリングのテストはまだ先だから、あさって、お部屋を見に行くわ」
 
「ウン、来て来て。いっしょに晩ごはん食べよ」
 「じゃ、夕方ね。でもほんとなら、すごいじゃん」 

        ほんとなんだってば。

 Yoko が来た夕方、Joy は

 「私、これからでかけるの。イタリアに行ってる間、うちのねこたち(大きくてゆったりと歩くふさふさの黒毛のねこが、2匹もいるのだ)のお世話をしてくださる紳士とお食事なの。帰りは多分、深夜になるわ」 

 
花模様のロングドレス(これがまたとってもお似合い)でおしゃれをして dinner に出かけるJoy を二人で見送りながら、Yokoは日本語でボソリ。
 「アンティークな家具と、これまたアンティークになりかけの、セクシーなおばあちゃま」
 ちょっと、聞こえるよ。
 私たちはそれからたっぷりとおしゃべりを楽しんだ。

 翌日の朝、Joy に友禅で作ったかわいいお手玉を、数個プレゼントして、ちょっと遊び方をご伝授。
 
 
日本の昔のこどものあそびなのよ。これは飾り用に作ってあるけど。

 あら、素敵。じゃ私はこのピンクのを2ついただくわ。あとの3つはブルーっぽいから、Mercia にあげるといいわ。
私のうちの color scheme はピンク彼女のはブルーだから 

   カラースキーム? 
  ほら、その人の家の壁とかカーテン、絨毯や絵の色のこと。

ふ〜ん、カラースキームねぇ。
そういえばソファなどの色もさりげなく統一されてるわね。
だから落ち着くんだ。

      そうか、一つ勉強したよ。

        メモっとこ。

 







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