就寝時 蚊の一匹を 逃しけり 沈丁花 我が家はかくも 狭きこと 梅干しの 種口中を 一回り つくしんぼう 家族のごとくかたまりて 梅咲いて 歩いて行こうか ポストまで 夜明け前 プロポーズする 猫の声 お隣は 振袖の娘 門に立ち 松とれて 昆布巻きだけが 残りおり 冬の陽を背に 仏壇に手を合わせ どの顔も 皆友達の 花の店 墓参り 若き面影 とこしえに 今みっけ シンピジュームの秋芽かな ひと群れは 白花なりし 彼岸花 彼岸花 突如咲きしと ニュース聞く 名を知りて これ愛しき 雑草の花 ゆり咲いて 急に明るく なる花壇 山あじさい 丸太造りの 喫茶店 朝顔の 桃色薄き 二番花 三日月に 追わるる如く 歩きけり 紫陽花や 小さき手毬の 浅黄色 五月晴れ 窓から見える 地鎮祭 知らんぷり けんかの後に 新茶飲む 実家より 帰りし夫の手に 芹の束 |
木の芽ふく 雲に交わる 薄緑 どこまでも 続く道あり イヌフグリ 自転車の 風に色あり 春うらら 真っ青な 空うばい合う 梅の枝 しあわせの 願とどけや 雛の段 春塵を 拭けば奏ずる オルゴール 日脚延ぶ 万年青の蔭の 冬水仙 いつの間に はや如月の カレンダー 幾重にも みくじ結びし 初天神 今はまだ 遠き春待つ 寒の鯉 ぼたん雪 南天の赤 冴え冴えと 松とれて 再び冬の さなかかな 裸木に 固き蕾の 花みずき 百人一首 読みつつ幼い日のよみがえる 残りたる 一羽も去りぬ 初すずめ 小松菜を 切って包丁 始めかな 積もりたる 師走の行事 駆け抜ける 柚子風呂や 過ぎし谷あり 今日の幸 庭掃除 風の量だけ 木の葉散り 花散らす 白山茶花の 白さみし |
姉ひとり 時には遠く 冬薔薇 枯草に 痩せこおろぎの 哀れかな いつになく 笑顔で話す 栗の飯 水たまり 映りし雲の 早きこと 秋の陽を 背に鉢花を 育ており コスモスの 花に見とれて 道まよう 今日もまた 蝶の集まる ニラの花 朝蜘蛛の 玄関に来て ぶら下がる 秋風や 嬉しくてふと 寂しくて 寝室に 秋の陽静かに 入り込む 高原の そば花に触れ 風光る 夜明け前 手足でさぐる 掛け布団 飛び石を 乗り越えのりこえ アリの列 夏寒し 暑中見舞いも 出しそびれ 空蝉の しがみつきたる 義母の墓 惜しまれて 朝顔縮む 昼下がり 初蝉や 日暮れてもなお 鳴き止まず 梅干しを 縁に広げて つゆ明ける 空蝉や 紙の音して 転がりぬ 膨らんで ころりと落ちる 憎っくき蚊 朝顔や 今日も変わらぬ 日の始め 夕じたく 紫紺のなすの キュッと鳴り さぎ草の 翼わずかに 震え居り |