ちょっといい話
【お母さん、私のために歌って!】
(03年4月4日更新)
私が大切にしているネットのお仲間で清水さんって方がおられます。東京で『読書のすすめ』と言う非常にわかりやすい店名で本屋さんを営んで見えます。
本屋を営む傍ら、昨年は本の執筆もされたとっても多才な方です。
この『読書のすすめ(通称読すめ)』では、なかなか他では出会えない良書が沢山紹介されています、オンラインショッピングも対応されてますので是非一度覗いてみてください。

今回のちょっといい話しで紹介するお話しも、以前清水さんから頂いたメールで読まさせて頂きました。
今回、転載のお願いをしたら快諾いただいた上に、またもう一ついい話しを提供くださいました(ありがとうございます>清水さん)、またの機会にそのお話しもご紹介できると思います(お楽しみに!)

このお話しの著者である『丸山浩路さん』の本もDreamsの本棚にあります(これも清水さんのおすすめと言うことで知りました)ので、是非読んでみてください。
とっても素晴らしい本です。



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◆「お母さん私のために歌って!」
 
おめでとう!花嫁姿の貴女を見ていると、二十七年前のことがうそのように思われてきます。
貴女の耳が聞こえないという診断がくだされた日の深夜、お母さんは貴女を抱いて線路に座り込んで死を覚悟したのです。「耳が聞こえない」という宣言は、お母さんにとっては、いや私にとっても考えだにしなかったことでした。

貴女には話していませんでしたが、お母さんはシャンソン歌手でした。私はその伴奏を
つとめるピアニスト。私たちはともに音楽大学を出たんだよ。知り合って、すてきな恋愛をして、結婚して、貴女を授かって、いつどんなときでも音楽に包まれていました。

ところが
三月に貴女が生まれて、その年の秋も深まる十一月頃に貴女の様子がおかしいのに気がついたのです。
貴女の背中ごしに声をかけても振り向こうとしない。私がわざと激しくピアノを叩いても怯えることもなくニコニコしている貴女でした。「まさか?」祈るような気持ちで大学病院の精密審査を受けた結果が「お嬢さんは先天性ろうです」の宣告でした。
幸せの絶頂から奈落の底に
突き落とされた私たちは神を恨み、運命を呪いました。
その日の夜、お母さんは貴女を抱いていつの間にか家を出ていました。必死で深夜の街を探しまわり、お母さんと貴女の二人を見つけたのは線路の上でした。引き戻そうとしたとき、お母さんは「死なせてください。この娘に申し訳なくて・・・、私のせいです。この娘と死なせてください」と叫びました。

そのときです。眠っていた貴女が目を覚まして
微笑んだのです。天使のように・・・・・。

貴女の微笑みを見た私たちは声を上げて泣きました。泣きつづけました。そのとき私たちは
誓ったのです。
「心の豊かな、笑顔のすてきな優しい娘に育てよう」と深く心に決めました。
 
それから二十六年。貴女は私たちの願いをかなえてくれた。
<私タチハ愛シアッテマス。結婚サセテクダサイ>
と彼と二人でそう言ってきたとき、私たちはあの日以来の涙を流しました。

ところで、貴女にお願いがあります。実は、お母さんは貴女の耳が聞こえないとわかった日から
歌手をやめました。私もピアノを弾くことをやめました。
だから、貴女は私たちが音楽家であった
ことを知らなくても当然です。
私たちが音楽にふれることは貴女に申し訳ないと思っていました。
でも、貴女が羽ばたいていく今、私はお母さんに「もういいだろう」と言ってあげたい。
貴女の幸せを願って歌うことが貴女の、私の、お母さんの喜びにつながると信じます。

貴女からお願いしてほしいのです。

<ワタシノタメニ歌ッテ!>と。

きっと歌える。唇を読みとろうととする貴女の眼差しにお母さんは心を込めて歌うと信じています。
 
ピアノは・・・・・もちろん私だよ。

 
以上、丸山浩路著


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清水さんの『読書のすすめ』さんのHPです。
http://www.dokusume.com/



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